サウジ最大の技術展示会「LEAP」
サウジアラビアの首都リヤドで、2026年8月31日から9月3日まで技術展示会「LEAP」が開かれました。
2022年に始まり、今年が第5回にあたります。通信情報技術省(MCIT)、サウジ・サイバーセキュリティ・プログラミング・ドローン連盟(SAFCSP)、Informa傘下のTahalufなどが共催しました。
規模は年々拡大しており、前回2025年の来場者は20万人を超え、2026年は出展社1,500社超(うち海外企業750社以上)が参加しました。日本ではまだ知名度が高いとは言えませんが、中東における技術・投資関連の催しとしては最大級です。
砂漠の中に、滑走路つきの展示場
会場のリヤド展示会議センター(RECC)は、市街地ではなく中心部から約70キロ、幹線道路を1時間ほど北に走った先の、周囲にほとんど何もない砂漠地帯に建っている大型展示会場です。同時に3万3千人を収容でき、駐車場は7,500台分と、そのスケールの大きさには度肝を抜かれます。
この立地には理由があります。なんと展示会場の屋外に専用滑走路を備えているのです。隔年で開かれる防衛装備展「World Defense Show」では、この滑走路を使って航空展示が行われます。2026年2月の開催では63機の航空機が並び、飛行展示は355回、来場者は13万7千人を数えました。
つまり、この施設は都市型の見本市会場ではなく、航空機を飛ばし、戦車を走らせることを前提に、あえて何もない場所に造られています。LEAPの会場としてはやや過剰にも見えますが、人口過密のリヤドの渋滞事情を考えれば、遠く離れた砂漠の展示会場は、かえって便利なのかもしれません。
発表された150億ドルの中身
閉幕時点で、会期中に発表された投資・提携の総額は約150億ドルとされています。ただし、内訳を見ると、その大半は初日に集中しています。2日目の発表額は約25億ドル、3日目は約8.6億ドルでした。
そして、その中身はAIのソフトウェアやサービスよりも、AIを動かすための物理設備に寄っています。
サウジ上場のAl Moammar Information Systems(MIS)が12億ドルを投じ、データセンターの稼働容量を192メガワットへ拡張しました。
NHC Innovationが8.8億ドル(33億リヤル)でクザーム・デジタルバレーを開発し、2033年までに65メガワットまで拡張可能としています。
AWSは12月に予定するサウジ・クラウドリージョン開設に53億ドル超をコミットしています。Microsoft Azureのサウジ拠点は11月に稼働予定です。
Adobeが通信情報技術省および国営AI企業HUMAINとの提携拡大で40億ドル超をコミットしています。
データセンター、電力、土地など、話題の中心はこのようなハード面に偏っていることが分かります。
買い手は政府
会場を歩くと、目立つ位置を占めているのが著名なIT企業ばかりではないことに気づきます。
公式のスポンサーがそれを裏づけています。内務省、国家警備省、司法省、教育省、人的資源社会開発省、文化省、スポーツ省が主要スポンサーとして名を連ねています。
政府向けデジタルサービスを担うelm(علم)、サイバーセキュリティのSITE。いずれも国営・準国営でありながら、展示の規模は外資大手と変わりません。
サウジ市場では、技術の買い手が省庁と国営系企業を中心としているのが特徴です。そのため、参入経路も民間同士の取引よりも、政府調達や国営系企業とのパートナーシップが起点になりやすいと言えます。
通信会社×農業
会場で最大規模のブースを構えた通信最大手のstcは、LEAPには第1回から5年連続で戦略パートナーとして参加しています。同社の展示で目を引いたのは、通信のその先にある応用分野でした。
大型ディスプレイに、大気、農地、海洋、地下水を層状に描いた模型が映し出されています。衛星とドローン、地下のセンサーから集めたデータで、農業に適切な地下水の運用を支援し、生態系を保護するという趣旨の展示です。
サウジは国土の大半が乾燥地帯で、農業と水は長年の課題です。通信会社の事業としては一見遠いように感じますが、国内にほかの担い手がいないのであれば、インフラを持つ会社が取り組むという理屈になります。
収益化について尋ねてみましたが、具体的な回答はありませんでした。技術の先にある収益化は、サウジの多くの企業が抱えるテーマなのかもしれません。
空の通信網を、自国でつくる
航空機の機内インターネットは、世界的にはスペースXのStarlinkが急速にシェアを伸ばしている分野で、カタール航空やユナイテッド航空が採用しています。
サウジアラビアの選択は違いました。国営航空のSaudiaは2025年にStarlinkと詰めた交渉を行ったと複数のメディアが報じましたが、契約には至らず、公共投資基金(PIF)傘下のNeo Space Group(NSG)を選びました。同社の「Skywaves」を使い、全席で最大300Mbpsの無料接続を提供します。2025年11月に運用を開始し、順次全機に広げています。
新興のRiyadh Airも、A321型機への搭載でNSGと組んでいます。今年第4四半期から提供が始まる予定です。
ただし、これを完全な自前と呼ぶのは正確ではありません。実際の回線には、SES(本社ルクセンブルク)が運用する静止軌道と中軌道の衛星網が使われています。NSGが担うのは、その上でのシステム統合と、航空会社への提供です。
それでも、外国企業のサービスをそのまま買うのではなく、国内企業を間に立て、運用と顧客接点を自国に握るという形を選んだこと自体が、方針の表明と言えます。
次の段階は「国内で作る」
同じ発想は、ハードウェアの側にも現れています。
会期3日目、サウジのAlfanar社が1.5億ドルを投じ、データセンター向け部材の国内製造に乗り出すと発表しました。金額としては目立ちませんが、これもサウジの戦略的方向性を示す一例です。
輸入して据え付ける段階から、国内で作る段階へ移っています。この局面では、設備・部材の供給、技術提携、合弁による現地生産といった話が動きやすくなります。
日本企業はどう参入するのか
Oracle、NVIDIA、HPE、Infosys、Deloitteなど、外資の顔ぶれは一通り揃っています。
日本からは、NTTデータがダイヤモンドスポンサーとしてホール1に出展しました。テーマは「Cities that Think」で、スマートシティ、交通、デジタルツイン、ロボティクスなどを並べています。同社は中東での実装能力を補うため、現地のZero&One社を買収済みです。
日本から製品を持ち込んで売るのではなく、現地に人と拠点を置き、政府案件の実装まで担うという形は、この市場での標準的な入り方と見てよいでしょう。
会場と行き方
一般来場者の入場は無料です。オンラインでの事前登録のほか、当日その場での登録も可能で、受付でバッジを受け取れば入場できます。パスポートの提示は求められませんでした。
投資家向けや創業者向けの有料パスは別に用意されていますが、展示を見て回るだけであれば費用はかかりません。
メトロ+シャトルバス
リヤド空港から現実的なアクセス方法は、リヤドメトロで北端の終点SAB Bank駅まで行き、駅前から出るLEAP専用無料シャトルバスに乗り継ぐ方法です。
空港 → イエローライン(4号線)→ KAFD駅で乗り換え → ブルーライン(1号線)北行き → SAB Bank駅
会期中のシャトル運行は次のとおりでした。
SAB Bank駅 → 会場:11時45分から17時30分まで、15分間隔。所要約1時間15分
会場 → SAB Bank駅:14時から22時まで、30分間隔。所要約1時間30分
いずれも交通状況により変動すると案内されていました。
車で行く場合
会場には広い駐車場があり、自家用車やタクシーでの来場も可能です。
ただし、会期中は周辺が相当混雑します。
買うのではなく、作る
4日間を通して見えたのは、サウジアラビアが「自国のサービスを自国で持つ」ことに強い意欲を示しているという点です。
クラウドは外資に開放しつつ、国内にリージョンを置かせています。空の通信は世界標準になりつつあるサービスを見送り、国内企業を立てています。データセンターの部材は、輸入から国内製造へ移そうとしています。農業や水資源のAIも、外部から買うのではなく、国内の通信会社が担おうとしています。
もちろん、その中身をたどれば外国の技術と資本が入っています。衛星はSES、半導体はNVIDIAとAMD、クラウドはAWS、Microsoft、Oracleです。それでも、看板と運用と顧客接点は自国側に置いています。この線引きの引き方が、今のサウジの一貫した方針に見えました。
外国企業にとっては、完成品を売り込む相手というより、現地側の主体と組む形が求められる市場 ということになります。
次回のLEAPは2027年4月の開催予定です。
LEAP 2027 Tech Conference | 12-15 April 2027 | RECC Malham, Saudi Arabia
今年が例外的に8月末開催となったため、通常の春開催に戻ります。
入場条件やシャトルの運行は回ごとに変わるため、渡航前に公式サイトで確認することをおすすめします。
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